米が5キロ2,990円。その価格に秘められた「食のリアリズム」を読み解く

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小泉進次郎氏の言葉が呼び水に──“米騒動”はこうして始まった

ある日、突然だった。

SNSのタイムラインに現れた「米5キロ2,990円」という文字列が、まるで高級レストランのデザートにふと現れた庶民的なプリンのような違和感と親しみを同時に引き起こしたのだ。

時は2025年5月22日。

新たに農林水産大臣に就任した小泉進次郎氏が、「ありがたいことに、長野県の全農で販売している米がとうとう2,000円台に乗った」と語った。この発言に呼応するかのように、長野県のJA全農が提供する「備蓄米ブレンド5キロ2,990円」が報じられ、SNSはたちまち沸き立った。

「何が起きたのか」「本当に安いのか」「それって政治の力?」

浮かび上がる疑問符をよそに、コメの話題がここまで人々の関心を集めるのも珍しい。だがこの“価格の物語”には、食の現場を知る者にとって、もっと地に足のついた現実がある。

備蓄米という名の「見えないストック」

あえて言おう。

この価格には、“裏メニュー”がある。

今回販売されたのは「備蓄米」と呼ばれるもの。これは、国が需給の乱れや災害に備えて保有する米であり、その一部が市場に放出されることがある。簡単に言えば、“非常用のセーフティネット”が、今回はお値打ち価格で我々の食卓に登場した、というわけだ。

長野県の全農で提供されたのは、「国内産ブレンド米」。これは、単一銘柄とは異なり、複数の産地や年度の米を組み合わせたもので、品質は安定しているが、ブランド性を持たないぶん、価格も控えめだ。5キロ2,990円という設定は、むしろ想定通りの価格帯だろう。

備蓄米は国が買い入れる段階で価格が低く抑えられているため、放出時も割安になりやすい。つまり、「急に安くなった」というより、「安く出せるタイミングが来た」という表現のほうが、現場の肌感覚に近い。

炊き立てご飯の湯気の向こうにある、冷めた現実

今回の米価をめぐる話題が、まるで政治の魔法のように扱われた背景には、米そのものが持つ“生活の温度”がある。

しかし現実はそう甘くない。

米価を左右するのは、政治家一人の采配ではなく、もっと複雑で静かな要素だ。

たとえば、近年進む米離れ。

若年層を中心にパンや麺類への嗜好が強まり、コメの消費量は年々減少傾向にある。コロナ禍以降は外食産業も振るわず、流通在庫が積み上がる中で、備蓄米を戦略的に市場へ放出する必要が出てきた。

これに物流費の上昇、円安によるコスト高といった要因も加わり、「いかに適正価格で消費者に届けるか」がJAや流通の大きな課題になっている。今回のような価格設定は、その努力の一端にすぎない。

炊飯器のフタを開ける前に——“価格”という調味料を見直す

私たちは、スーパーで手に取った米袋の数字に一喜一憂する。

けれどその数字は、単なる値札ではない。そこには生産者の汗、行政の調整、そして食文化の変化までもが滲んでいる。

小泉農水相の発言は、ある意味でその流れの中に“注目”という火を灯したのかもしれない。けれども、米の価格は、一夜で変わるものではない。むしろ、長い時間をかけて、じっくりと蒸されてきた問題なのだ。

価格が下がったとき、その理由を“誰かの手柄”や“陰謀”で片付けるのではなく、食卓の向こうにあるストーリーに目を向ける。

それもまた、「食」を愛する者にとっての誠実な姿勢ではないだろうか。

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