
群馬県高崎市は“パスタの街”?
群馬県高崎市。製糸業の街として知られるこの地に、なぜか異常なまでにパスタ専門店が多いという事実をご存知だろうか。駅前から郊外にかけて、喫茶店風のナポリタンから、本格派イタリアン、さらにはファミリー向けの大盛りパスタ専門店まで、ありとあらゆるジャンルのパスタ屋が密集している。
この高崎市に根付いた独特のパスタ文化は、地元では単なる外食の一つではなく、“高崎パスタ”という名の食文化現象として語られている。今回はこの現象の背景と、そこから見えてくる高崎という土地の味覚的アイデンティティについて探ってみたい。
高崎パスタの定義とは?──共通するのは“ボリューム”と“コスパ”
高崎パスタに明確なレシピ上の定義があるわけではない。しかし、市内の人気店に共通する特徴として、以下の3点が挙げられる。
- とにかく量が多い:普通盛りでも茹で前150g以上、中盛り・大盛りは400g〜500gに達することも珍しくない。
- 価格がリーズナブル:大盛りでも1000円前後。学食感覚で利用できる手軽さ。
- ローカルチェーンや個人店の個性が強い:メニュー構成やソースの味わいに、店主の哲学が反映されている。
つまり高崎パスタとは、**地元の胃袋に応える“過剰なまでの満足感”**を追求したご当地イタリアンと捉えるべきであり、決してナポリやボローニャに由来する洗練ではなく、上州人気質と生活文化から生まれたローカル洋食なのだ。

なぜ高崎にパスタ文化が根付いたのか?──製粉業と物流がカギ
高崎が「パスタの街」となった理由には、いくつかの歴史的・地理的背景がある。まず重要なのは、群馬県が日本有数の小麦の生産地であるという点だ。特に「農林61号」など群馬系統の中力粉は、うどんやスパゲッティの製麺に適しており、高崎周辺には古くから製粉・製麺業者が集中していた。
加えて、高崎は北関東の交通の要衝であり、食材の集積・配送拠点としての機能を持っていたため、外食文化の浸透が比較的早かった都市でもある。こうした産業基盤と食流通の強さが、結果としてパスタ専門店の成立・多様化を後押ししたのである。
人気店紹介──“地場パスタ”の奥深さを知る
高崎にはパスタを主力とする店舗が数多く存在する。以下にいくつかの代表例を紹介する。
- シャンゴ(SHANGO)
老舗の高崎パスタを代表する存在。「シャンゴ風パスタ」は、ミートソースにトンカツを載せた迫力の一皿で、“炭水化物+揚げ物”という満足感の暴力が魅力。 - はらっぱ
女性客にも人気のカフェ系イタリアン。パスタのゆで加減やソースの繊細さにこだわりつつも、ボリュームは健在。高崎らしいバランス感覚が光る。 - グルー(Gru)
創作系パスタに定評のある新興店。ウニクリームやトマトカレーなど、**高崎パスタの“新しい波”**を感じさせる一軒。
いずれも高崎パスタの多様性と“地元発の独自進化”を感じさせてくれる好例だ。

B級ではあるが“安っぽくない”理由
高崎パスタはしばしばB級グルメに分類されるが、実際に食べるとその料理としての完成度に驚かされる。大盛り主義にしても、単に麺を増やしているだけでなく、ソースと具材のバランス・味の濃度調整に細心の配慮がなされている。
この“気取らないけれどちゃんとうまい”という味の安定感が、高崎パスタを単なるジャンクに終わらせない秘密である。食堂的な価格帯でありながら、皿の上には店ごとの技術と工夫がきちんと宿っているのだ。
まとめ:高崎パスタはローカルにしてカルチャーである
高崎パスタとは、ただのパスタではない。それは、上州の小麦文化・食欲主義・家庭的なホスピタリティが融合した、食文化のひとつの形だ。観光客が訪れて驚くのは、その量だけではない。“こんなに愛されているパスタ文化があるのか”という、土地と料理の一体感なのである。
首都圏からのアクセスも良好な高崎で、ぜひ一度“腹ペコで臨むパスタ巡礼”を体験してみてほしい。その一皿は、満腹以上の満足を約束してくれるだろう。
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