
群馬は“ねぎ県”?——意外と知られていない「ねぎ王国」
群馬県といえばこんにゃくや焼きまんじゅうを連想しがちだが、実はねぎの名産地としても全国的に知られている。特に「下仁田ねぎ」はその名を冠するブランドねぎとして確固たる地位を築いており、群馬の冬の食卓には欠かせない存在だ。そして忘れてはならないのが「上州ねぎ」という広義の地域呼称。群馬全体におけるねぎの多様性と、その消費スタイルには、土地の食文化が色濃く反映されている。

「下仁田ねぎ」とは何か——唯一無二の“太くて短いねぎ”
下仁田ねぎは、群馬県甘楽郡下仁田町を中心に栽培される在来種の一本ねぎで、通常の白ねぎとは全く異なる外見と味わいを持つ。最大の特徴はその極端に太く、かつ短い白根部。火を通すと驚くほど柔らかくなり、トロリとした食感と強い甘みを発する。
辛味や青臭さが少なく、鍋料理やすき焼き、焼きねぎなど加熱調理で真価を発揮する野菜であり、「ねぎのトロ」とも称されることがある。下仁田町では、種まきから収穫まで15ヶ月以上かかるなど栽培が非常に手間であり、その分価格も高めだが、地元では贈答用や年末のごちそう食材として重宝されている。

「上州ねぎ」とは?——群馬全域に広がるねぎ文化の象徴
「上州ねぎ」という言葉は、特定の品種ではなく、群馬県内で生産される白ねぎ類の総称に近い。高崎・前橋・館林・太田といった各地で、それぞれに適応したねぎが育てられており、寒冷地での栽培が甘味の増幅につながるため、いずれも加熱調理に適した“冬向き”のねぎとなっている。
上州ねぎは、下仁田ねぎよりも汎用性が高く、価格も比較的リーズナブル。地元のスーパーでは“群馬産ねぎ”として年間を通して並び、日常の味噌汁や炒め物、薬味として使われる。つまり、下仁田ねぎがハレの食材であるのに対し、上州ねぎはケの日の味を支える存在と言えるだろう。

群馬の冬とねぎ——鍋料理における絶対的主役
群馬の冬は、内陸特有の放射冷却によって朝晩の冷え込みが厳しい。そのため、地元では鍋物の文化が発達しており、その主役ともいえるのがねぎである。下仁田ねぎはすき焼きや鴨鍋に、上州ねぎは寄せ鍋や味噌仕立ての鍋に、と用途に応じてねぎを“使い分ける”文化が根づいている。
特に下仁田ねぎは、群馬県民にとって冬の風物詩であり、**「ねぎを焼く香りが冬の訪れを告げる」**とも言われるほど。そのねっとりとした甘さは、味噌ベースのスープや脂の強い肉類とも好相性であり、鍋の味全体をまろやかにまとめる調整役としての力も発揮する。

郷土料理とのつながり——ねぎは文化の媒体である
群馬には、「すき焼き風おっきりこみ」や「ねぎ味噌だれを添えた焼きまんじゅう」など、ねぎをアクセントとして活かす郷土的食文化が複数存在する。さらに、ねぎの青い部分を活用した**“ねぎ味噌”**も家庭料理として根強い人気がある。
また、農村部では収穫後のねぎを**囲炉裏で炙って食べる“焼きねぎ”**が定番の冬のおやつでもあり、これらの習慣は、単なる食材としてのねぎを超えて、冬の共同体や家庭のぬくもりと結びつく存在となっている。

まとめ:ねぎを知れば、群馬の冬がもっと美味しくなる
ねぎは地味な食材と思われがちだが、群馬においては単なる脇役ではなく、**気候・土壌・食文化と密接に結びついた“主役級の野菜”**である。下仁田ねぎの甘さと力強さ、上州ねぎの懐の深さ。その両者が織りなす“群馬の冬の味”は、他県にはない個性を持つ。
冬の鍋に群馬のねぎを加えることで、料理はぐっと深みを増す。そしてその一口一口に、寒さを受け入れ、楽しみに変える知恵が息づいているのだ。
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