群馬県を代表する名湯「伊香保温泉」は、その石段街や歴史ある湯宿だけでなく、地元ならではの個性的なグルメでも知られている。特に観光地としての立地と、長年培われた門前文化に支えられ、伊香保には旅情と郷土を感じさせる“ここだけの味”が点在している。
定番の水沢うどんはもちろん、地元で愛され続けてきた意外な逸品まで、伊香保で味わいたい名物グルメを5品厳選して紹介する。

水沢うどん|“三大うどん”の一角をなす伝統の味
まず外せないのが「水沢うどん」。群馬・伊香保の水沢観音門前で発展してきた名物で、日本三大うどんのひとつに数えられる存在だ。
特徴は、半透明でつるりとした喉越しと、控えめながらも深みのある味わい。一般的な“コシの強さ”で勝負するうどんとは異なり、滑らかさと繊細な食感を重視した造りとなっている。
つけだれには、醤油ベースのキリッとしたものと、胡麻だれの濃厚タイプの二系統があり、店ごとに味わいが異なる。特に名店「大澤屋」や「清水屋」では、こだわりの熟成麺と手製のたれが提供されており、食べ比べの楽しみも大きい。

温泉まんじゅう|“元祖”の名を冠する黒糖の香り
伊香保の石段街を歩けば、あちこちで湯気の立つ“温泉まんじゅう”が目に入る。実はここ伊香保は、温泉まんじゅう発祥の地とされており、1900年代初頭に誕生した歴史がある。
伊香保のまんじゅうは、黒糖の皮とこしあんというシンプルな構成。黒糖の香りと上品な甘さが特徴で、食べ歩きにもぴったり。老舗「勝月堂」のまんじゅうは特に有名で、早朝から行列ができることもある。
温泉まんじゅうは「蒸したて」でこそ真価を発揮する。土産にするのも良いが、できれば現地でその柔らかさと香りを味わっておきたい。

上州牛のすき焼き|群馬の黒毛和牛を温泉地で堪能
群馬が誇るブランド牛「上州牛」を使ったすき焼きは、伊香保温泉での特別なディナーにふさわしい逸品だ。赤身と脂のバランスがよく、口に入れた瞬間にとろけるような食感が魅力。
地元の旅館や割烹では、群馬の地産野菜(下仁田ネギ、舞茸など)とともに供され、関東風の割り下で煮るスタイルが一般的。特に秋から冬にかけては、温泉とともに身体を芯から温めてくれる。
伊香保温泉街では、宿泊者限定で上州牛プランを提供する旅館も多く、贅沢な“地元肉体験”が可能となっている。

焼きまんじゅう|群馬ソウルフードの“炭火系スイーツ”
群馬県民のソウルフードとして根強い人気を誇る「焼きまんじゅう」も、伊香保観光ではぜひ味わいたい一品。見た目は串に刺さったパンのようだが、れっきとした和菓子の変化球である。
蒸した酒まんじゅうを炭火で軽く焼き、甘辛い味噌だれをたっぷり塗って焼き上げるのが特徴。外は香ばしく、中はふんわりという食感のコントラストがクセになる。
伊香保石段街では、店頭で焼き立てを提供する店舗も多く、食べ歩き用としても人気。甘さの奥にある“焦げ味噌”の風味が、旅情をいっそう深めてくれる。

舞茸天ぷら|地元山間部で採れる天然きのこの力強さ
榛名山麓の山あいに位置する伊香保周辺では、秋を中心に良質な天然きのこが豊富に採れる。中でも人気が高いのが「舞茸」で、天ぷらとして供されるのが一般的。
衣の中に閉じ込められた舞茸は、噛むたびに香りが広がり、肉厚な食感も食べ応え十分。水沢うどんのトッピングとしても定番で、単品でも主役級の存在感がある。
特に地元産の「原木舞茸」は香りが強く、流通量が少ないため、現地でしか味わえない一期一会の味とされている。

まとめ|伊香保温泉のグルメは“温泉街以上の文化”である
伊香保温泉の魅力は、温泉や観光地としての価値にとどまらない。そこには、地域に根ざした食文化が脈々と息づいている。水沢うどんのような格式ある料理から、焼きまんじゅうのような大衆的スイーツまで、幅広い“味の地層”が存在するのだ。
観光の途中で立ち寄る食事ではなく、「食べに行くこと」自体が旅の目的になり得るのが伊香保の面白さ。もし伊香保を訪れるなら、ぜひ足と舌を使って、この土地の味の奥行きを体験してみてほしい。
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